心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない


 このままじゃ、私の気持ちお兄様にバレちゃう!
 ……って、さっきのお兄様は何もわかってなさそうだったけど。



 焦りと同時にレオの『グレイは底抜けの鈍感男』という言葉も思い出し、マリアはひとまずホッとした。
 先ほどのグレイを見る限り、絶対に何も気づかれてはいないだろう。
 嬉しいのか不満なのか、よくわからない感情にマリアは眉をくねらせた。

 そんなマリアの様子をずっと見ていたエドワード王子が、はぁーー……と大きなため息をつく。


「ほんとに昔から兄のことばっか考えてて腹立つな」

「あ……ごめんね。エドワード様」

「謝るな! なんか余計に虚しくなるから!」


 エドワード王子がガァッと小さな声で文句を言ったとき、こちらに近づいてくる男性に気がついた。王子の眉がピクッと反応する。
 一目で高位貴族だとわかるほどのオーラを纏った40代後半の男性──フランシーヌの父、ロッベン公爵だ。


「エドワード殿下、聖女マリア様にご挨拶を申し上げます」

「……何か御用でしょうか。ロッベン公爵」


 睨みつけはしないものの、真顔で言葉を返すエドワード王子。迷惑だと思っているオーラが嫌というほど滲み出ている。
 それに気づいているであろうロッベン公爵は、気にする素振りもなく半笑いで王子に話しかけた。

 
「実は、ガブール国の方々にロッベン公爵家からも贈り物を用意いたしましてね。一応王家の方にご確認していただきたいと思っているのですよ」

「贈り物? そんな話は俺ではなく──」

「マリア様っ」


 エドワード王子の言葉を遮り、誰かがマリアの名前を呼んだ。
 慌てた様子でこちらにやってくるのはフランシーヌだ。ドレスの裾を捲り上げ、足早に歩いている姿を見る限り急を要するものだと察せられる。



 フランシーヌ様?


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