心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
マリアが返答するよりも早く、ロッベン公爵が口を開いた。
「フランシーヌじゃないか。そんなに慌ててどうした?」
「お父様! 実は、先ほどご令嬢が1人倒れてしまったのです。意識がなくて、すぐにマリア様を呼ばなくては……って」
「えっ? それはどこですか?」
「控え室です! もしかしたらどこかのお部屋に移動されてるかもしれませんが……」
「案内してください!」
意識がないなんて大変だわ! すぐに行かないと!
フランシーヌに続いて走り出そうとしたマリアの腕を、王子がパシッと掴む。
「待て! 俺も行く!」
「殿下、申し訳ございません。体を楽にするために、今そのご令嬢のドレスを緩めているのです。男性は入れません」
「!」
眉を下げて謝るフランシーヌに、王子は何も言い返せない。
医者や家族でもないエドワード王子がその部屋に入ったなら、そのご令嬢の尊厳が失われてしまうからだ。
悔しそうに顔を顰めたあと、王子はマリアをチラッと見て手を離した。
「……わかった。マリア、頼んだぞ」
「はい!」
フランシーヌと共に会場を出る際、ここぞとばかりに王子に話しかけているロッベン公爵の姿が目に入った。
王子に同情しつつ、マリアはフランシーヌのあとに続いて王宮の廊下を進んでいく。