心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
意識不明の方がいるなら、一刻も早く部屋にマリアを連れて行きたいはずだ。
それなのに、ゆっくりと歩くメイドがマリアには不思議だった。
「こちらのお部屋デス」
「あ、はい」
カチャ……と丁寧に開けられた扉の先には、先ほど挨拶に行った王太子の部屋の半分もない狭い部屋が見えた。
まるで騎士や使用人の部屋みたいで、ここにご令嬢がいるのかと一瞬戸惑ってしまう。
しかし、ベッドの布団が盛り上がっていることで本当に人が横になっているのだとわかり、マリアは慌ててベッドに向かった。
「大丈夫ですか? 失礼しますね」
意識がないと聞いていたので、頭まで被っていた布団を軽く持ち上げる。
その瞬間、マリアは驚いて大きな声を出した。
「えっ? な、なんで……」
女性が寝ていると思われたそのベッドには、なぜかアドルフォ王太子が寝ていたのだ。
マリアと目が合った瞬間、王太子はニヤッと嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。
「騙してゴメンネ。聖女様」
「どうしてアド……きゃっ!」
アドルフォ王太子はマリアの腕を掴み、無理やりベッドに引き入れた。
突然のことで頭がついていかず、ポカンとしているマリアを王太子の夜空のような瞳が真っ直ぐに見下ろしていた。