心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
よくわからないけど、倒れた人はいないってことだよね?
それならば聖女である自分は必要ない。
エドワード王子に王太子とは会うなと言われているし、できるだけ早く会場に戻らなくては。
マリアは起きあがろうとして、自分の上にいる王太子に声をかけた。
「アドルフォ王太子殿下。そこ、どいてもらっていいですか?」
「…………」
「アドルフォ王太子殿下?」
目が合っているのに、アドルフォ王太子は笑顔のままマリアを見ていて答えない。
聞こえていないのかもと思ったマリアは、王太子の顔の前で手を振ってみた。
フリフリしている指の隙間から、王太子が我慢できずに噴き出したのが見える。
「ブフッ。せ、聖女様……」
「あっ、アドルフォ王太子殿下! 聞こえますか?」
「き、聞こえてマ……ははっ」
何がそんなにおもしろいのか、王太子は肩を震わせて笑っている。
早くどいてほしかったが、マリアはひとまず王太子の笑いがおさまるのを待つことにした。
早く戻らないとエドワード様にまた怒られちゃうのに……。