心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
94 いなくなったマリアと王太子
「グレイ! 1回くらいダンスしてあげなよ!」
「うるさい。なんで会場警備中のお前がここにいるんだ、レオ」
あいかわらず壁に寄りかかっていたグレイのところに、レオが小言を言いにきた。
やっとピンク髪の令嬢がいなくなってホッとしたタイミングだっただけに、余計に鬱陶しく感じる。
「ここも会場の中だからいいんだよ! それより、べティーナが兄の副団長に泣きつきに来たんだよ。グレイが踊ってくれないって。少しでいいから踊ってあげてよ」
あの女、いなくなったと思ったら兄に泣きつきに行っていたのか。
なんともめんどくさい女だと、グレイは小さく舌打ちをする。
「嫌だ。俺はそんな面倒を言わない女っていう条件でパートナーにしたんだ」
「グレイの出した条件は、『婚約を求めてこない女』でしょ! ダンスを求めてこない女じゃないんだから」
「……そんな意見が通ると思ってんのか?」
「頼むよ! 副団長にも頼まれちゃったんだから」
「断る」
「グレイ〜〜……って、ん?」
半泣き状態だったレオが、急に真剣な顔で会場内の階段を凝視する。
主にマリアを見張っていたレオは、グレイと言い合いしている最中にもマリアから目を離してはいなかったのだ。
マリアに何かあったのかと、グレイもすぐに階段を振り返る。
「あれは……」