心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
フランシーヌが足早にマリアに向かっているのが見える。
少しやり取りをしたあと、マリアとフランシーヌだけがその場を離れて会場から出ていった。
なんだ? なんで生意気王子は一緒に行かないんだ?
グレイがエドワード王子をジロッと睨んだときには、すでにレオは入口に向かって歩き出していた。
「俺、マリアを見てなきゃいけないから!」
「ああ……頼んだぞ」
2人が出て行った扉から、少ししてレオも出ていく。
令嬢2人でどこかに行くとなると、大抵は身だしなみを整えにいくなどの理由だろう。
マリアを嫌っているはずのフランシーヌ嬢がわざわざマリアを呼びに来たのは謎だが、アドルフォ王太子や他の男でないなら特に問題は……。
そこまで考えて、グレイはハッとして会場全体を見回した。
アドルフォ王太子が──いない。
さっきまで会場の真ん中で令嬢に囲まれていたはずの王太子は、いつの間にか姿が見えなくなっていた。
パーティーで席を外すことはもちろんある。
今もたまたまどこかに行っているだけかもしれない。
けれど、グレイは背筋に冷たい氷を当てられているかのようにスーーッと体が冷めていくのを感じた。
嫌な予感がする。王太子はどこに行った?