心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない

 フランシーヌが足早にマリアに向かっているのが見える。
 少しやり取りをしたあと、マリアとフランシーヌだけがその場を離れて会場から出ていった。



 なんだ? なんで生意気王子は一緒に行かないんだ?



 グレイがエドワード王子をジロッと睨んだときには、すでにレオは入口に向かって歩き出していた。


「俺、マリアを見てなきゃいけないから!」

「ああ……頼んだぞ」


 2人が出て行った扉から、少ししてレオも出ていく。
 令嬢2人でどこかに行くとなると、大抵は身だしなみを整えにいくなどの理由だろう。


 
 マリアを嫌っているはずのフランシーヌ嬢がわざわざマリアを呼びに来たのは謎だが、アドルフォ王太子や他の男でないなら特に問題は……。



 そこまで考えて、グレイはハッとして会場全体を見回した。
 アドルフォ王太子が──いない。

 さっきまで会場の真ん中で令嬢に囲まれていたはずの王太子は、いつの間にか姿が見えなくなっていた。

 パーティーで席を外すことはもちろんある。
 今もたまたまどこかに行っているだけかもしれない。
 けれど、グレイは背筋に冷たい氷を当てられているかのようにスーーッと体が冷めていくのを感じた。



 嫌な予感がする。王太子はどこに行った?


< 706 / 765 >

この作品をシェア

pagetop