心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
そう王子がポツリと呟いたとき、通路の先からこちらに向かって歩いてくる令嬢が目に入った。
髪型とドレスからして、フランシーヌだ。
控え室とは逆方向の通路を歩いている。
「フランシーヌ嬢!」
エドワード王子がそう叫ぶと、まだ顔がよく見えない位置でその令嬢はピタリと足を止めた。
一瞬、逃げそうな気配を感じたが、彼女は手を胸の前におき軽く頭を下げた。
近づいていくほどその手が震えているのが見える。
「フランシーヌ嬢、1人か? マリアは?」
「……マリア様は、現在治癒中でございます」
「なぜ1人で戻ってきたんだ? 治療といってもマリアの力なら一瞬で治るはずだ。なぜ一緒にいない?」
「そ、それは……」
カタカタと震えているフランシーヌの様子を見れば、何かを隠していることは丸わかりだ。
まさかいきなり王子と兄と護衛騎士の3人に囲まれることになるとは思っていなかったのだろう。
動揺が態度に出てしまっている。
エドワード王子がジロリと鋭い視線を向けると、フランシーヌは観念したように話し出した。
「あの、実は、ご令嬢が倒れたというのは嘘だったのです……。ほ、本当は、アドルフォ王太子殿下に頼まれて……」
「アドルフォ王太子殿下!? マリアは王太子のところに行ったのか!?」
「は、はい……!」