心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
「!?」
突然グレイに抱き上げられたマリアは、その嬉しさと緊張から一瞬でキスされた衝撃を忘れてしまった。
顔の赤くなったマリアを見て、アドルフォ王太子がクスッと小さく微笑む。
自分の時には見せなかった愛らしい反応に、思わず吹き出してしまったのだろう。
グレイはずっと王太子を睨んだままなので、顔の赤いマリアには気づいていない。
「ああ。ゴメン、ゴメン。うちの国ではコレ挨拶みたいなモノだから。今日はガブール国のやり方に合わせたパーティーって聞いてるカラ、別にイイんだよネ?」
「……そうですね」
適当な性格に見せてなかなかの確信犯。
そんなアドルフォ王太子のセリフに苛立った様子のグレイは、言いたいことを我慢してなんとか冷静に答えた。
突き飛ばされて尻もちを着いていたレオが、グレイが激怒しなかったことにホッと胸を撫で下ろしている。
「ひとまずマリアの体調が悪そうなので、今夜はこれで失礼します。……いいですよね? エドワード殿下」
「……っ! ああ。……早く帰らせてやってくれ」
いきなり話を振られたエドワード王子は、不快そうに顔を歪めてから渋々グレイの意見に賛成した。
マリアに帰ってほしくないという気持ちよりも、アドルフォ王太子から離れさせたいという気持ちが勝ったのだろう。
「ありがとうございます。では」
「……ああ」
「またネ。聖女様」
アドルフォ王太子の挨拶に、マリアはペコッと軽く頭を下げた。
なぜグレイがマリアの体調が悪いと嘘をついたのかわからなかったけれど、グレイと一緒に帰れるのならマリアにとっても喜ばしいことなので特に聞き返すこともしなかった。