心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない

 マリアを抱き上げたまま歩き出そうとしたグレイは、何かを思い出したのかピタッと足を止めた。
 不機嫌そうなエドワード王子を振り返り、低く冷静な声で話しかける。


「あ。そういえば、マリアをここに案内したあの令嬢のことも……よろしく頼みますよ。エドワード殿下」

「わかっている! アドルフォ王太子殿下とフランシーヌ嬢のことは俺に任せて、ヴィリアー伯爵は早くマリアを連れて帰ってくれ」


 イライラとしたエドワード王子の返事に、グレイが小さな声で「言われなくても」と言ったのがマリアの耳に届いた。
 レオはエドワード王子と一緒にこの場に残るらしい。

 スタスタと歩き出したグレイを見送っているレオに、マリアは小さく手を振った。



 ……急に帰ることになったけど、お兄様すごく怒ってるし大丈夫かな。


 
 エドワード王子のように、なんで王太子と2人になったんだって怒られるかもしれない。
 馬車に乗って出発してからも、マリアはソワソワと落ち着かなかった。
 グレイがずっと黙っているので、不安は大きくなるばかりだ。



 どうしよう……先に謝ったほうがいいのかな……。



 そんなことを考えていると、王宮を出て初めてグレイが口を開いた。


「マリア」

「はっ、はい?」

「今夜は俺の部屋で寝ろ」

「……はい?」


 文句を言われると思っていたマリアは、予想外すぎる言葉にキョトンと目を丸くした。
 
 暗い馬車の中で、グレイの綺麗な碧い瞳が輝いて見える。
 その瞳を見つめたまま、マリア今何を言われたのかと頭をフル回転させるのだった。
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