心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない


「風呂が終わったら、マリアを俺の部屋に連れてこい」


 屋敷に到着するなり、グレイは出迎えていたエミリーにそう告げて部屋に戻った。

 いつも以上に大きな声で「は、はいっ!!」と返事をしたエミリーの顔が赤くなっていたことには気づいていたが、今のグレイにはどうでもよかった。

 バンッ!!

 乱暴に自室の扉を閉めると、グレイはジャケットを脱いでソファに投げた。
 セットしてあった髪もグシャグシャと手でかき、大きなため息をつきながらドカッと椅子に座る。


「はぁーー……」


 イライラがおさまらない。
 黒い感情に覆い尽くされそうだ。
 こんなにも心を乱されたことは過去に一度もない。

 どうすれば治る……? とグレイが頭を抱えている間、いつの間にか時間が経っていたらしい。

 コンコンコン

 ノックの音で、グレイはハッとして顔を上げた。


「あの、お兄様。マリアです」

「……入れ」

「失礼します……」


 おずおずとした様子で、寝間着姿のマリアが部屋に入ってくる。
 風呂から出たばかりなのか、少し頬が紅潮しているようだ。

 不思議と、真っ黒な感情が少しだけ薄れた気がする。

 グレイは「こっちに」と言いながらベッドに移動した。
 ベッドに腰を下ろし、ポンポンと手で叩く。ここに来いという意味だ。
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