心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
少し不満そうにモジモジしているマリアが、グレイには危うく見えた。
回答次第によっては自分の部屋に戻ってしまうかもしれない。……それは困る。
かと言って、何を言えばいいのかわからない。
ひとまずグレイは正直な理由を伝えてみることにした。
「俺の目の届くところにいてほしいからだ」
「……え?」
動きを止めたマリアが、真っ直ぐにグレイを見つめる。
今のは聞き間違い? とでも言いたそうな顔だ。
そんなマリアを可愛いと思っている自分に、グレイは気づいた。
マリアが来たことにより、先ほどよりもだいぶ苛立ちがおさまってきている。
服を着替えたことで、家にいるんだという安心感が強まったのもあるかもしれない。
少し落ち着きを取り戻したグレイは、そのまま今の自分の感情を素直に話すことにした。
「目を離したら、またマリアがどこかに……王太子に連れていかれるんじゃないかって心配なんだ」
「……ここにアドルフォ王太子はいないよ?」
「わかってる。だが、あの男ならそれでもなんとかしてマリアに近づくんじゃないかって思ってるだけだ」
「…………」
この場にいない人をここまで警戒しているとは、と自分でも呆れてしまう。
しかし、そんな馬鹿げた言い分を聞いてもマリアはグレイのことをおかしい者を見る目で見たりしない。
グレイはそんなマリアの純粋な瞳が昔から好きだった。