心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
一瞬で自己嫌悪に陥りそうになったとき、マリアが意を決した様子でグイッと顔を近づけてきた。
「私はっ! 私は……お兄様が好き。恋愛の意味で」
「…………」
「だから、お兄様も同じ気持ちだったら嬉しい……!」
ギュッと目を瞑り、少しうつむくマリア。
小さな肩や布団を握りしめている手が震えていて、マリアが緊張しているのが嫌というほど伝わってくる。
恋愛の意味で俺が好き?
見目麗しく若き伯爵であるグレイは、これまでに何度も女性から好意の言葉をもらったことがある。
偶然会った際に直接伝えてくる者、他人を介して伝えてくる者、手紙をしたためてくる者と様々だったが、そのどれもがグレイにとっては不快であった。
しかし、今は違う。
好意を向けられているというのに、心が温かくなっていることにグレイは気づいていた。
「…………」
「あ、あの、違ったならごめんなさ……」
グレイからの返答がないため、マリアは不安そうにゆっくりと顔を上げた。
言葉を途中で止めたのは、グレイがクックッと軽く笑い出したからだ。
肩を震わせながら静かに笑うグレイを、マリアはポカンとしながら眺めている。
「お兄様?」
「……悪い。俺にもこんな感情があったのかと驚いてた」
「?」
「おそらく、俺は今これまでで1番喜びを感じてる」
そう言いながら、グレイはマリアの髪に触れてやわらかく笑った。
作った笑顔ではなく、自然と顔が緩んで笑ってしまったのだ。