心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
「他の男といるだけで苛立ったり、自分の目の届くところにいてほしいと思ったり、好きと言われて喜んだり……そんなのはマリアに対してだけだ」
「え……」
「俺は妹じゃなく、女としてマリアのことが好きだったんだな」
「…………っ!」
マリアの目からポロッと涙が溢れる。
その瞬間、グレイはマリアを優しく抱きしめていた。
すぐにマリアの腕がグレイの背中に回され、服をギュッと掴まれたのがわかる。
今までに感じたことのないほどの幸福感に包まれて、グレイは目を閉じた。
いつから……いつから俺は、マリアを女として見ていたんだ?
こんな大切な存在に、気づいているようで気づいていなかった。
今ならあの恋愛小説の内容も少しは理解できる。
そう考えて、グレイは自分自身を心の中で笑った。
生意気王子にマリアと結婚すると言われて動揺したのも、アドルフォ王太子に対してあんなに嫌悪感を持ったのも、全部マリアが好きだったからだ。
「アドルフォ王太子……」
そうボソッと呟きながら、グレイは目を開けた。
記憶から消したいくらいの忌々しいものを思い出したからだ。