心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
そう言うなり、マリアはチュッとグレイの左頬にキスをしてきた。
グレイがその意味を一瞬で悟ったことに気づいたのか、口を離したマリアが照れくさそうにニコッと笑う。
「ミアのキス……?」
「うん。女性は男性の左頬にキスをするのがミアのキスなんでしょ? 意味は、〝私はあなたのもの〟」
私はあなたのもの。
その言葉が、グレイの心に温かく響いていく。
ミアのキスなんて、俺とは一生縁のないものだと思っていたのに……。
自分がされたいと思うことも、誰かにしたくなることも絶対にないと思っていた。
そんなミアのキスをされてこんなに嬉しくなるなんて……と、グレイは自分自身に驚いてしまう。
「私はあなたのもの、か」
そうボソッと呟いたグレイは、マリアの左手を掴むとその甲に優しくキスをした。
男性から女性に送るミアのキスだ。
キスをした瞬間、マリアの手がビクッと小さく震えた。
その手を離さないまま、グレイはまだ膝立ちの状態だったマリアを軽く見上げる。
「なら、俺はマリアのものだ」
「…………っ!」
マリアの瞳にまた大粒の涙が溜まった……と思ったときには、もうその瞳からボロボロと涙が溢れてきていた。
なぜこのタイミングで泣き出すのかわからず、グレイは戸惑ったまま泣いているマリアを抱き寄せた。