心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない

 そう言うなり、マリアはチュッとグレイの左頬にキスをしてきた。
 グレイがその意味を一瞬で悟ったことに気づいたのか、口を離したマリアが照れくさそうにニコッと笑う。


「ミアのキス……?」

「うん。女性は男性の左頬にキスをするのがミアのキスなんでしょ? 意味は、〝私はあなたのもの〟」


 私はあなたのもの。
 その言葉が、グレイの心に温かく響いていく。



 ミアのキスなんて、俺とは一生縁のないものだと思っていたのに……。



 自分がされたいと思うことも、誰かにしたくなることも絶対にないと思っていた。
 そんなミアのキスをされてこんなに嬉しくなるなんて……と、グレイは自分自身に驚いてしまう。


「私はあなたのもの、か」


 そうボソッと呟いたグレイは、マリアの左手を掴むとその甲に優しくキスをした。
 男性から女性に送るミアのキスだ。

 キスをした瞬間、マリアの手がビクッと小さく震えた。
 その手を離さないまま、グレイはまだ膝立ちの状態だったマリアを軽く見上げる。


「なら、俺はマリアのものだ」

「…………っ!」


 マリアの瞳にまた大粒の涙が溜まった……と思ったときには、もうその瞳からボロボロと涙が溢れてきていた。

 なぜこのタイミングで泣き出すのかわからず、グレイは戸惑ったまま泣いているマリアを抱き寄せた。
 
< 730 / 765 >

この作品をシェア

pagetop