心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない


 これって、聖女の力?
 もしかして私が昨日幸せいっぱいだったから?
 それはちょっと……恥ずかしいっ。



 マリアを讃えるような視線の中で、エミリーだけが意味深な笑顔で見つめてきていることにマリアは気づいていなかった。


「おはよう。マリア」

「レオ! おはよう。戻ってきてたんだね」


 支度が全部終わった頃、レオが部屋に入ってきた。
 いつも通りの明るい笑顔を作っているものの、その目の下にはクマができている。


「うん。昨夜……っていうかほぼ朝だったけど」

「まだ寝てていいよ? パーティーの警護、そんなに大変だったんだね」

「いや。警護っていうか、置いていかれたべティーナの愚痴に付き合わされ……って、な、なんでもない! それより、屋敷の中がだいぶピカピカなんだけど……これってマリアの力?」


 レオは話をそらすように天井や周りをキョロキョロと見回しながら聞いてきた。


「そう、みたい。研究室にこの力を届けに行きたいんだけど、行ってもいいと思う?」


 王宮にはまだアドルフォ王太子が滞在している。
 あの場に残されたエドワード王子とアドルフォ王太子がどんな話をしたのかわからないため、自分がまた王宮へ行っていいのか迷っているのだ。

 レオもすんなりいいよとは言えないらしく、腕を組んでうーーんと唸った。


「どうだろう……。本当は行かないほうがいいけど、研究室や治癒の光のことを考えると行ったほうがいいだろうし……」

「だよね?」

「とりあえず、グレイに聞いてみよう」

「! そ、そうだね」


 グレイ……という名前を聞いただけで、マリアの心臓がドキッと大きく跳ねる。
 その一瞬の反応を見て、エミリーがまたニコニコと意味深な笑顔になったことにレオだけが気づいていた。
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