心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
「エドワード様。本当にごめんなさい」
「いいよ。マリアが自覚した時点である程度の覚悟はできてたし。……ほら、もう話は終わりだろ? 帰れ、帰れ」
エドワード王子はプイッと横を向くと、マリアの顔を見ないまま手でしっしっと払うような仕草をした。
すぐにレオがやって来て、マリアとグレイに「行くよ」と声をかける。
やけに焦った様子のレオを見て、グレイとマリアは言う通りにして部屋から出た。
「今は1人にしてあげよう」
そのレオの言葉の意味を理解し、グレイは一度扉を振り返ったあとに軽く会釈をするとスタスタと歩き出した。
戸惑っていたマリアもグレイのあとに続いて歩き出す。
「レオ。エドワード様、大丈夫かな?」
「うん。きっと大丈夫だよ。覚悟はできてたって言ってたし」
「お兄様もそう思う?」
「……ああ」
「そっか……」
シュンとしながら歩くマリアの横顔を見ながら、グレイは変な違和感に襲われていた。
〝お兄様〟?
マリアに『お兄様』と呼ぶように言ったのはグレイ自身だし、呼ばれたときにはそれなりに気分も良かったはずだ。
なのに、今のグレイはその言葉に引っかかりを感じていた。
レオのことは『レオ』なのに、俺のことは『お兄様』……。
小さなモヤモヤを胸に感じながら、グレイたちは王宮をあとにした。