心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
「あの、私が言っちゃったの。お兄様は私のことが好きなの? って」
「……マリアにそこまで言わせて、やっと気づいたってこと?」
「う、うん」
マリアはフォローをしたつもりだったが、今やグレイを見るレオの目には軽蔑の色しかない。
それがわかっているからか、グレイはわざとらしく窓の外に視線を向けていた。
レオはまだ何か言いたそうな顔をしていたけれど、マリアがいることに気遣ったのかその後は何も言わずに黙っていた。
伯爵家に到着するまで、恨めしいような視線をグレイに送りながら──。
お屋敷に到着したグレイたちを出迎えたのは、ガイルを筆頭とする使用人たち全員であった。
なぜかみんな不自然なくらい笑顔になっている。
目がチカチカするほど明るい花で飾られた玄関ホールに入り、グレイは家を間違えたのかと思った。
マリアとレオは顔を輝かせながらキョロキョロとホール内を見回している。
「おかえりなさいませ」
「……これはいったいなんだ?」
「グレイ様とマリア様のお祝いとして、使用人全員が張り切って屋敷中を飾りつけました」
屋敷中を? 玄関だけでなく?
そう口から出そうになったが、その前にグレイには聞きたいことがあった。
「俺とマリアのお祝いとはなんのことだ?」
「もちろん、お二人の結婚のお祝いでございます」
「!」
咄嗟にマリアとレオを振り返ったが、2人とも首を横にブンブンと振っている。
話したのは自分ではない──という意味だが、それもそうだろう。
なぜなら、グレイとマリアが結婚すると決めたのはついさっきなのだから。