心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
本当に、このジジイは……。
呆れるような、イラッとするような、関心するような。
そんな複雑な感情の中で、グレイは感謝の気持ちが大きいことに気づいた。
ガイルのおかげで、マリアとの結婚は滞りなく進めることができるのだから。
「……まぁ、実際にそうなったわけだし、助かったよ」
ざわっ
一瞬で、使用人たちの動きが止まる。
あのガイルでさえ、目を丸くしてグレイを凝視している。
……なんだ?
グレイのその疑問は、レオによって明らかにされた。
「また、昔のグレイだ……」
「!」
そこではじめて、グレイは自分が笑っていることに気づいた。
使用人の前で笑うなんて、いったい何年ぶりだったのだろうか。みんなの反応を理解すると共に、グレイは居た堪れない気持ちになった。
(グレイ様が笑った……!?)
(あのグレイ様があんなに優しく笑うなんて!)
(あの笑顔、幼い頃のままだわ。あ。涙が……!)
(マリア様のおかげで、グレイ様に笑顔が!)
心の声はわからないはずなのに、なぜかなんとなくみんなの考えていることが伝わってくる。
この空気に耐えられなくなったグレイは、「部屋に戻る」とだけ伝えて足早にその場を離れたのだった。