心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
「じゃあ、行こうかな」
「はい。ぜひ!! 呼ばれるまでは誰もお部屋に行きませんので、遠慮せず! ごゆっくりと!」
「う、うん? わかった」
メイドたちからのやけに熱い声援を受けながら、マリアはグレイの部屋へ向かった。
もしかして執務室にいるかも? と思い顔を覗かせたが、グレイの姿はなかった。今はよほど使用人たちと顔を合わせたくないようだ。
コンコンコン
「お兄様。マリアです。入ってもいい?」
「ああ」
グレイの部屋をノックすると、すぐに返事が聞こえた。ホッと安心しつつ、ゆっくりと扉を開けて中に入る。
グレイはベッド脇に立ち、サイドテーブルに常備してある水を飲んでいた。
「メイドたちとの話は終わったのか?」
「うん。……みんな喜んでたよ」
「まさかこっちが話す前に知られているとは思わなかったけどな」
「さすがガイルだよね」
あははと笑いながら、マリアはソファに腰掛けた。
グレイが「そうだな」と言いながら自然と隣に座ってきたので、マリアは内心ドキッとした。
実はまだグレイの近くにいると緊張してしまうのだ。
お兄様はこんなに普通なんだから、私も早く普通にならなきゃ……!