心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
「あの、じゃあなんて呼べばいいの?」
「グレイでいい」
「ええっ!? ……無理!!」
マリアにキッパリ拒絶されて、グレイは軽くショックを受けたような顔をした。
すぐに名前を呼んでフォローしたいところだが、『お兄様』から急に『グレイ』と呼ぶのはマリアにとってはなかなかに難しい。
「何が無理なんだ?」
「だって……ずっとお兄様だったのに、いきなり名前……なんて」
「レオのことはレオって呼んでるだろ」
「レオは初めて会った時からずっとレオだもん」
グレイはチッと舌打ちをしながら別邸の方角を睨んだ。
「レオのことも『お兄様』って呼ばせれば良かった」
「……そんなにお兄様って言われるのが嫌なの?」
「……今はな」
ムスッとしているグレイが、我儘を言っている子どものようで愛らしい。
大人っぽくてカッコいいと思っていたグレイのことを、可愛いと思ってしまっている自分にマリアは少し驚いた。
お兄様が嫌なら、今度からは言わないようにしなきゃ。
でも、グレイはさすがに言いにくいし……。だからといって他に呼び方はないし、どうしよう!