心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
マリアが頭の中でグルグルと考え込んでいると、グレイが覗き込むようにして顔を近づけてきた。
「マリア。とりあえず、一度呼んでみろ。意外と大丈夫かもしれないだろ」
「う……。え、と…………グ、グレイ?」
「もう一度」
名前のところだけかなり小声になってしまったからか、やり直しを命じられる。
マリアは文句も言わずに素直に従った。
「……グレイ」
さっきよりは声を出したつもりだけれど、まだまだ小さい声。それでもグレイにはちゃんと届いたらしい。
嬉しそうにニコッと微笑んだグレイを間近で見て、マリアは心臓が止まるかと思った。
「や、やっぱり難しいよ……」
「これから少しずつ慣れていけばいいさ」
そう言いながら、グレイがよくできましたと言うかのように優しく頭を撫でてくれる。
優しい笑顔、優しい手、優しい言葉。
グレイの温かさに思わず見惚れていると、頭を撫でていた手がいつの間にかマリアの左手に移っていた。
軽く持ち上げられて、その甲にキスをされる。
グレイからの二度目のミアのキスだ。
あ……ミアのキス……。
ほうっと惚けているマリアを、グレイの碧い瞳が真っ直ぐに見つめてくる。