心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
似たもの同士? 私とお兄様が?
キョトンとしているマリアに、笑いのおさまったらしいグレイが顔を上げる。
愛しい者を見るような、色っぽいグレイの瞳にはまだ慣れない。
マリアはドキッと大きく跳ねた心臓が体から出てしまうんじゃないかと心配になった。
「俺もまったく同じことを思ってた。マリアは俺の光だって」
「……私がお兄様の光?」
「ああ。俺の世界を明るくしてくれたのはマリアだ。マリアと会えて本当に良かった」
「……! うん、私も。……本当に私と一緒だね」
「ああ」
心が温かい気持ちで満たされていく。
これまでに何度も何度もグレイに出会えたことに感謝してきたけれど、今またマリアは心からありがとうの気持ちでいっぱいになった。
優しく微笑んでいるグレイの顔が、少しずつマリアに近づいていく。
その碧い瞳がすぐ目の前にきたとき……マリアはそっと目を閉じた。
頬でも手でもなく、はじめてのグレイとのキス。
やわらかい唇が触れ合った瞬間、マリアの目からは自然と涙が一粒流れた。
「……マリア。さっきまた俺のことをお兄様って呼んでたぞ」
「え? ……あ」
唇が離れてすぐ。グレイの第一声はそれだった。
実はずっと気になって拗ねていたのか、それともただの照れ隠しなのか……どちらにせよ、マリアには愛しさしか感じない。
「ごめんね。え……っと、……グレイ」
「これから少しずつ練習だな」
「う、うん」
嬉しそうにフッと鼻で笑うと、グレイはまた顔を近づけてきた。
何度も唇を重ね合いながら、マリアは自分のこれまでのことを思い返していた。
とても幸せとは言えない幼少期だったけれど、きっとこれから生きていく先にはいいことしか起こらないだろう。
もし何かあったとしても、グレイがそばにいてくれるなら耐えられる。
そんな幸せな未来を想像して、マリアはグレイに出会えた自分の運命に感謝した。