心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない

 ママとパパが死んだ?
 じゃあ私にももう治せないな……。



 マリアは、ジュード卿のことを父親だと思っていた。
 本人に向かってパパと呼んだことはなかったが、心の中でだけそう呼んでいたのである。

 しかし、その『パパ』と『ママ』が死んだとわかっても、マリアは泣かなかったし、悲しいという感情もなかった。

 親子としての記憶など、この数年間全くなかったし、父・母ではあるが、マリアにとってはただの『たまに会う人』というくらいの感覚であった。


「これからどうしたらいいんだ……。俺1人で聖女の秘密を守っていくなど、できるわけない……。しかしこれからも隠していかなくては、俺はおしまいだ……」


 キーズは、視線を彷徨わせたままブツブツと喋り続けている。
 目は血走っていて、顔は土気色になっている。
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