心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
「お前は……俺よりも不幸なヤツだな。聖女として生まれたなら、王宮で贅沢な生活を送れるものを。強欲な人間に見つかったせいで、こんな場所でこんな暮らしをしているとは」
マリアは、少年が何を言っているのかよく理解できていなかった。
ただ、少年から哀れみの感情が出ているのは感じる。
今までたくさんの人に会ってきたマリアだが、『哀』の感情を向けられたことはない。
治癒で訪れた貴族の中には、マリアに向かって「可哀想に」という言葉を投げかけた者もいたが、そこに『哀』の感情はなく、ニヤリと口元を緩ませた『楽』の感情ばかりであった。
身体が回復したことへの『喜』の感情、突如イザベラから与えられる『怒』の感情もよく向けられるが、『哀』の感情を向けてきたのは少年が初めてであった。