心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
どこか自分自身にも向けているような、そんな『哀』の感情を出す少年。
マリアはなぜか涙が出そうになった。
褒められたわけでもないのに、胸がほっこりとした気持ちになっている。
「お前に名前はあるのか?」
──マリアだよ。
マリアはコクリと頷いた。
「そうか……。なんという名前なのか……」
マリアは答えることができない。イザベラに人と会話することを禁止されているから。
少年は視線を上にあげて、何か考え込んでいるようだ。
だめ……。しゃべっちゃだめ……。あの人がだめって言ってた。声を出しちゃだめって……。
でも、マリアの名前……言いたい。