心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない

 どこか自分自身にも向けているような、そんな『哀』の感情を出す少年。

 マリアはなぜか涙が出そうになった。
 褒められたわけでもないのに、胸がほっこりとした気持ちになっている。


「お前に名前はあるのか?」


 ──マリアだよ。


 マリアはコクリと頷いた。


「そうか……。なんという名前なのか……」


 マリアは答えることができない。イザベラに人と会話することを禁止されているから。
 少年は視線を上にあげて、何か考え込んでいるようだ。


 だめ……。しゃべっちゃだめ……。あの人がだめって言ってた。声を出しちゃだめって……。
 でも、マリアの名前……言いたい。
< 99 / 765 >

この作品をシェア

pagetop