愛しているから、結婚はお断りします~エリート御曹司は薄幸令嬢への一途愛を諦めない~【試し読み】
第一章 とまどいの再会

 「赤城公士《あかぎこうじ》です。本日はよろしくお願いします。音羽柚花(おとわゆずか)さん」

  公士って……。

 名前を聞いて、反射的に顔を上げ相手の顔を見た。

 そしてその瞬間、呼吸すら忘れてただ彼の顔を見つめる。

 相手も黙ったまま、私を見ていた。

 〝なぜ〟と〝どうして〟が頭の中をぐるぐると駆け巡る。答えなど出るはずないのに。

 「……か……柚花! いったいなにをやっているんだ。挨拶もまともにできないのか?」

 現実に引き戻したのは、叔父、音羽篤史(あつし)の叱責の声だった。こちらを鋭い視線で睨みつけている。

 「申し訳ございません。音羽柚花です」
 
 今さら自己紹介など必要だろうか。向こうは私と違い相手を把握しているのに。
 
「すみませんね。いい歳して社交性のかけらもないもので」
 
 叔父は私の後頭部に手を添えて無理やり頭を下げさせる。
 
「音羽さん、やめてください。このような席ですので、緊張なさっているんですよ。きっと」
 
「いや、さすが赤城の御曹司となると懐が深いですな」
 
 はははと声をあげて笑う叔父は、相手の機嫌を取ることに必死だ。おそらくこのお見合いがうまくいくと信じているからに違いない。
 
 まさか……私が断るなんて想像もしていないんだろうな。
 
 後のことを考えると憂鬱になるが、彼と結婚を考えるなんて無理だ。他の人ならまだしも……彼だけはダメ。
 
「すみませんが、あまり時間がないものでふたりで話をさせてください」
 
「わかりました。確かに当事者同士で話をするのが一番いい」
 
 叔父はニコニコと揉み手をしながら頷いた後、私の耳元で小さな声で囁いた。
 
「うまくやるんだぞ」
 
 半ば脅しのようなセリフに私は返事ができない。どう頑張っても今回のお見合いが成功するはずないのだから。
 
 私は返事もできないまま、叔父を見送った。
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