おいで、Kitty cat
・・・
「……そういえば、そんなこともあったような……」
『ん。さくらにとっては、些細なことだったと思う』
「……っ、いや、あのムカつく店長のことは覚えてるよ! 」
永遠くんのことを「些細」だなんて表現したくなくて、必死で主張したけど。
「あ」
って言った後に、彼は少し意地悪な顔をして。
『俺より、店長のことが記憶に残ってるんだ。覚えてないより、寂しいかも』
(うっ……)
あの時の店員さんが、若い男の子だったことは覚えてる。
でも、それが永遠くんの特徴と一致していたかと言われると。
「……ごめ」
「うそ」
からかうことすら最後までしないで、永遠くんは文字で続けた。
『寂しいより、その方が好きが勝つから』
もう何度、ストレートに「好き」を伝えられても、その出会いのどこにも、そんなポイントが見つけられない。
『恥ずかしかったけど、その日から本当に生きる目的ができた。またさくらが来たら、このアイス渡すこと』
大袈裟だなんて言えなかった。
それまでに何があったのかなんて聞く権利はないし、永遠くんが話したいと思わない限り、必要もない。
『俺があげたいくらいだったけど、できないし。できたとしても、意味分かんないだろうし。でも実は、こっそり確保はしてた』
「そうだったんだ……」
そういえば、買えずに帰ったことはなかったような。
『ん。そうこうしてるうちにね。俺、夢ができてた』
それが、今のお仕事か。
聞いてみたいけど、踏み込みすぎかな――……。
「アイスになること」
――って、ん……??
『あ、アイスになりたくなっちゃったな、と思って』
「……アイス? 」
ぽかんとしてる私を見た永遠くんは、楽しそうだ。
笑われて、いっそう頬が染まるのは。
「そ。さくらにとっての、アイス」
意味が分からず「??」を浮かべることも。
間抜けな声で聞き返すことも。
意味を教えられて理解する段階を踏むように、首から頬まで赤みを帯びていくことも。
――全部、お見通しのうえでの優しい意地悪だから。
『疲れてたら、癒やしてあげたい。嫌なことあったら、慰めたい。いつか、さくらにとってそんな存在になりたくなってた。……な、自分に気づいたら』
「庇ってくれて助かったからとか。格好よかったとか……だから、憧れてるんだとか。そんな言い訳で誤魔化せないくらい、好き。……好きでしか、この気持ち処理できないって諦めついたら。彼女に認識される前から諦めなくていいんだって、頑張れた」
『……で、コンビニ辞めて、仕事見つけて。引っ越して、さくらとさい』
そこまで読んで、照れながらも「そっか、再会して今に至ったのか」と納得してたのに、当の永遠くんがフリーズしてる。
「え……? 」
どうしたんだろうとじっと見つめてたのに気づいた途端、ブンブンと首を振るけど、何を言ってるのか聞き取れなくて、無意識に近寄って耳を傾けた。
「ち……が。違う……! から」
「……何が? 」
何かを否定しているらしいけど、真っ赤になってボソボソ言われてやっぱり聞きにくい。
「……!! ……や、だからその。ストーカーじゃない。偶然……! そりゃ、このへんなのかな、とは思っ……ったけど……! 偶然だからストーカーじゃない……」
「……分かってるってば」
「偶然」と「ストーカーじゃない」を繰り返す永遠くんにそう言ってみせたけど、背の高い彼になぜか上目で「本当に? 」って見つめられて。
「……ありがと」
アイス、確保してくれて。
ちっとも可愛いくないことで、好きになってくれて。
「あ、アイス溶けた……」
「また冷やして、後で食べるよ。今は……」
――ありがとう。お腹いっぱいで、「他の」アイスは要らない。