おいで、Kitty cat
今日も、仔猫がドアの外で待っている。
インターホンを押した後、そわそわしてるだろう彼を想像してクスッと笑ったのは、単に自分への牽制だけだったかもしれない。
「デートしたい。……だめ? 」
まるで、そんな言葉を予期してたみたいに。
・・・
よく晴れていた。
水色にちょうど映えるくらいの雲が浮かぶ、それほど暑すぎない陽気。
朝起きて、カーテンを開けて。
この空を見てから、誘ってくれたのかな――……そんな自意識過剰かもしれないことを想像してしまうくらい。
「……えと」
公園のベンチ、道すがら買ったサンドイッチの袋を膝に乗せた永遠くんは、モゾモゾと少し居心地悪そうにスマホを取り出した。
『すごい今更だけど、つまんなくない? 』
「どうして? ……あ、ごめん。つまんなそうな顔してるかもしれないけど、これでも楽しんで……」
超低空テンションの能面女だから、きっとこれ以上ないほどの無表情でぼーっと座ってるだけに見えるんだ。
せっかく誘ってくれたのに申し訳なくて必死で否定したけど、それすらあり得ないくらい無感情に見えるんだろうな。
「そんなんじゃない。……なら、よかった」
ゆっくり首を振って、そう微笑むだけなのに。
永遠くんはどうして、そんなに感情表現が豊かなんだろう。
言葉少なめなのが、ちっとも気にならない――それどころか、心地いいと思う。
それほど抑揚の強い喋り方でもない、どちからといえば寧ろ一定のトーンなのに、ほんのり温かみが伝わってくる。
上手く表現できずにもどかしくて、優しくて耳に心地いい声と目に毒なほど甘い笑顔の永遠くんが羨ましくなる。
「さくらの、そういう穏やかな顔好きだよ」
物欲しそうな、拗ねた顔してるかな。
能面だと思ってたけど、もしかしたら微々たる変化があったのかも。
何にしても、それに気づく永遠くんはすごすぎる……。
「表情がくるくる変わるわけじゃないかもしれないけど。そういうの、目まぐるしくて俺にはついてけないから。俺は、さくらの……」
「……な、なに」
そこでぽっと頬を染めて止められたら、恥ずかしいのに気になって続きを催促してしまう。
『横顔す』
「……き、だったけど。また正面で見れて嬉しい」
「…………え、あ、の」
『でも、だからストーカーでは』
「そ、それは分かってるってば」
どもった理由を勘違いしたのか、また一気にそうメモして見せてくれたけど。
「なんていうか、俺は心地よくて好き。……綺麗」
『心配したのは、日向ぼっこつまんなくないかなって。それだけ』
永遠くんのメモは不思議だ。
普通、声に出して言いにくいことほど、文字にしそうなのに。
甘くて恥ずかしくて、照れくささすら感じるのが遅れるほどのラブレターは、優しい声色に乗る。
それが愛情からだと。
大切なことほど、一生懸命声にしてくれようとしてくれるのだと気づいてしまったら。
有り難くて切なくて、自分が能面なのが苦しくなるの。