おいで、Kitty cat
理屈としては理解できる。
好きな人から子ども扱いされたら、誰だって嫌な気持ちになるだろうことも。
ものすごく当たり前の感情であろうことも、私はきっとほぼ全部分かってる。
ただひとつ、一番大事なこと――永遠くんを傷つけてしまうこと――それが「永遠くん」と「私」に起きたということだけ、上手く受けとめられない。
『予想はしてた。すぐには信じてもらえないかもしれないって』
「……」
永遠くんを信じてないんじゃない。
寧ろ、信じられないのは私自身の方。
かなり年下の男の子から告白されるということが、「私」の身に起こることをやっぱり信じることができない。
でも、否定していいわけがなかった。
『俺だって、悩んだよ。さくらが年上だってことっていうより、きっと相手にされないだろうなってことに。ただでさえ、モブもモブに告白されてキモいだろうし』
「……モブはわた」
「でもね」
最後まで言わせてくれなかったのは優しさだ。
分かってるのに無意識に肩が揺れてしまって、傷ついた顔をしたのは永遠くんの方。
『なんで、同じ世代に生まれなかったんだろうって恨んだり嘆いたりしたけど。年が近い世界で生まれてたらさ、今度は会えなかったかもしれない。どこか別の県にいたかもしれないし、日本ですらなかったかも。それなら、俺は』
「もし人生を選べたとしても、何度だって今を選ぶよ」
(横顔が綺麗なのは、永遠くんの方だ)
ちょっと怒ってるようにも見える真剣な顔で言ってから、すぐに照れたみたいにふわっと笑ってくれた。
あまりに美しくて、目の奥が熱くなるくらいに。
『それにね。もしこんな出逢い方じゃなかったら、俺がおじいちゃんで、さくらが赤ちゃんだった世界だった可能性もあるわけでしょ。そしたら、さすがに声かけれなくて困る』
「……それはもう、声かけるって表現にはならないね……」
というか、そもそもそんな気が起きようがないと思うんだけど。
「…………」
「…………」
意味もなく空を見上げて、二人同時に視線を互いに戻して。
目が合うと、おかしくて堪らなくなった。
「勝手におじいちゃん想像して、笑いすぎ」
「自分が言ったんじゃない」
ひとしきりの爆笑が止んでも、まだクスクス笑ってしまう。
悩んだ末の思考転換だったのかもしれないけど、それにしても想像力豊かだ。
「ね。そう考えると、まだ恋愛対象に入ってる気がしない? 」
それは、少し話がズレている。
私は、永遠くんが私の恋愛対象外だなんて一言も言ったことないのに。
(……それが、答え)
『逢えて、話せて、好きだって言える世界にいれて幸運。この気持ちを殺せないならそう思うしかないし、実際、それが事実でしかないんだ。だって、考えたらね』
「どうでもいいと思ってた人生が、そうじゃなくなった。どうにかしたいって、思うようになった。やっと認識されて、話せて、それどころか今、デートしてる。それって、確率半端ないくらい」
――奇跡。
『だから、無駄にはしたくない。大好きだって伝えたいし、伝わってほしいし』
「……好きになってほしい」
吹いた風が、永遠くんの髪をさらりと攫う。
柔らかな髪をより綺麗に見せる薄茶色が、日に透けて眩しい。
永遠くんは綺麗だ。
思わず手を伸ばしかけて、慌ててパッと後ろに隠すしかなくなるほど。
本当に仔猫の毛並みだったら、もっと気にせず触れられたのに――会って初日で撫でた記憶を、無理やりなくしてしまいたくなる。
――それが、答えだ。