おいで、Kitty cat
帰り道。
隣、一歩前を歩く永遠くんが、チラチラ後ろにいる私を見ているのは気づいてた。
私、歩くのが遅いのかも。
緊張して、心臓の音がうるさくて、歩くのに集中できない。
「あ……」
永遠くんの指が、私の指をくんっと引いた。
お互いの人差し指同士だけが結われている光景が、異常なほど恥ずかしくて照れてしまう。
触れている面積の分、手を繋ぐよりもピュアだと思う一方で、繋ぐよりも絡む方がオトナにも感じて。
『かなり年上だよ……!? 』
自分の裏返った声が脳内でリフレインして、笑ってしまう。
かなり年上。
かなり年下。
それ、今本当に感じてる……?
永遠くんの手、大きかったんだ。
それ、本当に初めて知ったって言える?
本当は、ずっと想像してしまってたのかもしれない。
ううん、そうでしかあり得ない。
たった一本の指の、それも先の方で優しく留められただけで、こんなにもホールド感があって安心して歩ける。
それは永遠くんが男の人だからで、私にとっても男だからで、それが嫌じゃないどころかすっと私のなかに浸透していくから。
頼りきった指先から伝わる体温が、心臓をもっと高鳴らせる。
ほっとするくせに、寂しい。
心地いいのに、切ない。
それはきっと、やっと今その感情を受け容れ始めたばかりのくせして、本当はもっと。
――ぎゅっと繋いでいてほしいと、催促する音。
「……矛盾」
「えっ……? 」
心の中を読まれたのかと思って勢いよく見上げると、真ん丸になって見つめてくる瞳にかあっと頬が熱くなる。
「そんなに手見られたら、緊張する。……なのに、やめてほしくない」
目が合った瞬間、永遠くんの黒目を下から見つめていると、きっと彼が理解した瞬間。
優しく細くなった目を見て、頬の熱が耳や首筋を巡って全身に広がった。
「何考えてるのか知りたいと思ったら、すごく緊張するけど……もし反対で一緒のことだったらって思ったら、ずっとそうしててほしくなる」
反対で、一緒。
確かに矛盾した言葉が何を指してるのか、聞かなくても分かってる。
「撫でられた時も思ったけど、やっぱりちっちゃい。仔猫のふりして俺、あの時もそんなこと思ってたよ」
お互い意識していないと気にならない、些細な違い。
好意がないと測りようもない、大きさ。
「それに、年の差って何か影響してくるのかな」
口は開いたのに、酸素が上手く取り込めない。
独り言のようにも聴こえる、ぽつんと漏れた言葉だったけど、呼吸困難になるのは私自身答えが確立しているからだ。
それをどうにか伝えようと、必死で声にしようとした。
「……っ」
――はず、なのに。
「えっ、清瀬さん? 」
「……っ、あ……! 」
聞き覚えのある声がして、咄嗟にその手を離してしまった。
ああ、さっきまで、あんなに晴れてたのに。
移り気で不安定な空に雲が広がるのなんて、あっという間だな――……。
永遠くんの顔を見るのが怖くて、そんなことを考える私は、やっぱり自分が大嫌いだ。