おいで、Kitty cat
雨は、激しくなるばかりだ。
でも、そんなのどうだってよかった。
これだけびしょ濡れになっていれば、これから更に濡れても関係ないし、最早みっともないを既にかなり通り越していた。
何より、本当にそんなこと気にならない。
あのアイスを手に入れられなかった私は、途方に暮れていた。
(……馬鹿みたい)
あのアイスを無事に買えていたからといって、何だと言うんだろう。
アイスを買って帰ったからって、そこに永遠くんがいるわけじゃない。
階段を上って、私と彼の部屋のドアのちょうど中間くらい。
そわそわしてる永遠くんの姿が、結構早い段階で見えてるのを気づかないふりしながら、笑いを堪えてそうっと上る必要なんか、もう二度とないのに。
だから、帰らなくちゃ。
やっとそう思い始めると、今度は一刻も早く帰らないといけない気分になる。
雨が止むのなんか待たないで、もう少ししたら小降りになるかなとか、発想もなくて。
空と地面を繋ぐストライプみたいな大雨に、飛び込むように外に出た。
バッグの他は手ぶらだ。
濡れて困るものなんてない。
そんなに遠くもないんだし。
寧ろ、帰りたくないくらい。
一人暮らしの、誰も待っていないマンションに着いたら、私は――……。
「さくら……!! 」
――永遠くんのいないあの通路で、きっと蹲ってしまう。
「……っ、ごめ……」
絶対そうだと思ったのに、帰り着くのを待たずに涙が溢れたのは、永遠くんの幻影が見えたからだ。
「ごめん……ごめん、なさい……」
永遠くんは何も悪くないのに、一生懸命、途切れ途切れ謝ってくれて。
「……っ、とわ、く……」
駆け寄って、せっかく差してた傘を放り出して。
誰の目も気にせず、ずぶ濡れの私をぎゅっと抱きしめてくれるからだ。
「濡れる……」
おかしいな。
幻なのに、温かい。
夢かもしれないからとおずおずと胸に頬を寄せれば、トクトクという、鼓動という名の幻聴がして。
「……ん。さくらがびしょ濡れだから、俺も濡れとく」
涙と雨でぐしゃぐしゃの髪を耳にかけてくれる指先は、なぜか少し震えてた。
「帰ろ。……アイス、家にあるよ」
コンビニからちょっとの先で抱き合ってる私たちは、どうやら他の人にも見えているらしい。
指を指されたり、こそこそ何か言われて恥ずかしいよりも、ただほっとした。
「……ここにいてくれて、ありがと」
ああ、そっか。
こんなにシンプルなことだったんだ。
幻でも、夢でもない。
私、永遠くんの腕のなか。
いつもと同じように、こんなに優しい言葉を聴けてる。