おいで、Kitty cat
「……っ、あ……」
永遠くんが苦しそうに息を呑んだ。
(私って……)
告白して、そんなに辛そうな顔させるなんて。
しかも、先に好きだって言ってくれた人を。
何か、大事なものが私のなかに欠けていることは、もちろん分かってはいた。
それが恐らく、ひとつじゃなくたくさんあることも。
でも、それがこんなにも悲しくて、欠陥だらけなことが苦しいのは初めてだった。
「……っ」
沈黙が続いたからか、慌てて永遠くんはスマホを手繰り寄せ。
「え……? 」
なぜか、放り出した。
呆れたのかもしれない。
諦めたのかもしれない。
だって、やっぱり年齢だけの問題じゃないんだ。
年の差なんていう、世間一般的な理由や言い訳の裏に隠していた。
永遠くんは素敵な人だ。
だから、隣にいていいのか悩んだし、怯えてただけ。
「俺も好き……大好き。そんな顔させて、ごめん」
「そんな顔? 」
まだ好きだと言ってくれた安堵を上手く味わえなくて、それ以外のことに反応する。
永遠くんに会って笑うようになったけど、サイボーグだよ。
ううん、今や人工知能の方がよっぽど人間らしい。
そんな私に、そんな顔も何も――……。
「泣きそう」
その言葉に、自分の目が丸くなったのを感じて。
「我慢させて、泣かせてあげられなくてごめん。それに」
瞼にゆっくり触れられて、反射的に目を瞑って、再び開いたら。
「泣かせてごめん」
永遠くんの指が、顎で止まっていた涙を吸収してく。
そっか、涙――……。
「……ありがと……」
私、泣いてる。
瞼や鼻の頭がじんじんするのも。
頬が熱いのか冷たいのか、よく分からない不思議な感覚も。
永遠くんの顔がよく見えないのも、全部。
また、泣いてるから。
「ごめ……」
「なんで謝るの。好きだって言ってくれて、嬉しいのに。言葉だけじゃなくて、こうやって触れててくれるのに。分からなかったのは、俺のせいだよ」
それを言うなら、永遠くんこそ謝るところはひとつもない。私が、上手く伝えられないからだ。
「さくらは教えてくれてるのに。好きじゃなかったら、こうして側にいたり、そんなに悲しそうな顔するわけない。そんな考えなくたって分かることを、俺自身が拒んだから」
ああ、ほら。
伝えきれないうちに、頑張れば届くのに、ほんのちょっとの背伸びを躊躇してるうちに、もう――……。
「俺なんか、好きになってもらえるわけないって。きっと、ものすごい自惚れからくる勘違いだって。調子に乗って近づいたら、嫌われるんじゃないかって怖くて。さくらのせいにしながら、自分から近づいたくせに、また逃げてた」
――遅かったんだって絶望する間を取り上げて、抱きしめられた。
「言葉、変かもしれない。声も、聞き取りにくかったらごめん。でも、特に今は文字は使いたくないから……格好悪いけど、言わせて」
――好きになってもらえて、幸せ。
「あなたに届いたのが嬉しい。……ね、やっぱり、言ったとおり」
――俺、この世界にいれて、よかった。
「さくらにも、そう思ってもらえますように……じゃないね。いつか、絶対そうする。好き……大好きだから」
年なんて、関係なかった。
私がサイボーグになったのは、永遠くんの優しさを最大限感じられる為のことかもしれない。
そんなことを思うくらい、私も涙に霞むこの世界に生まれたことを感謝してる。