おいで、Kitty cat
こんなに綺麗な景色を、他に知らない。
そう思えたのは、隣に永遠くんがいたからだ。
あの日、実際にこの目で見た景色も綺麗だった。
でも、永遠くんの絵を見て、心のより深くまで何かが入ってくるような感覚になるのは。
きっと、こんなにも短い期間で、ますます彼を好きになってるから。
「……俺も」
「え? 」
声がくぐもっていて、初めて自分が泣いてることに気づいた。
恥ずかしくて、何だか申し訳なくてぐっと拭おうとするのを、永遠くんの手が止める。
「俺も、泣いたんだよ。さくらに会って、好きになって、どんなに見込みがなくたって、あー、好きになったんだから仕方ないなって。さくらなんだから、そりゃ好きになるの当たり前なんだから、俺にどうしようもできるわけなかったやって。そう認めた時」
――すごく、景色が色鮮やかに見えて。
「……俺も、泣いちゃった。だから、ありがとう」
『泣かないで』って言わない永遠くんが好きだ。
それが本当でも、優しい嘘でも構わない。
言わなくても大丈夫なのに、「ありがとう」って添えて教えてくれる永遠くんが好きだ。
だから。
「……うん……」
受け取ってもいいかな。
恐る恐る見上げると、まるで承諾したように優しく微笑まれて。
都合いいかもしれないけど、その笑顔を見るといっそう「ありがとう」が沁みてまた涙が溢れていった。
「……じっと見られたら恥ずかしいね。あんまり、人に見せたことないし、それが彼女なら尚更」
「自慢していいと思うけど……欲しいくらいだもん」
この絵をずっと眺めてたい。
淡い期待を抱いたのがバレたのか、永遠くんが今度は少し困ったように笑った。
「これはダメ。気に入ってはいるけど、納得はいってないし」
「……そっか」
なんて声をしてるんだろう。
これじゃ、本当に感情が筒抜けだ。
(……感情……? )
自分でも上手く把握できてない気持ちを、既に永遠くんは読み取ってくれる。
優しい永遠くんだから。
繊細で、敏感だから。
だから……だけど。
「さくら、分かりやすい。……ううん、それだけじゃないね。……俺が、つい見ちゃうから……だね」
私が永遠くんの前で、感情を持った人間になってる。
「これは、あげない。……あのね。さくらにあげたい絵は、別にあるんだ」
「え……? 」
顔に出やすいなんて言われたのも初めての経験で衝撃を受けているところに、想定していなかったことを続けられてぽかんとしてしまう。
「でも、それもまだ渡せる状態じゃなくて。もう少し、待ってくれる……? 」
『この気持ちが、もっと上手に伝えられるものになったら』
「……上手く言えなくて、何もかも拙くて、すごくもどかしいけど。でも、ちゃんと言葉でも頑張って伝えるから。だから……」
――たくさん、受け取ってね。
少しずつ、視界が遮られる。
綺麗な景色が見えなくなっても、残念じゃないのは。
永遠くんの薄茶色の髪が、白い指先が、黒く長い睫毛が、近づいてきたからだ。