おいで、Kitty cat
・・・
(……で、私は一体何を……)
真剣な瞳に見上げられ、頭が真っ白になった私は。
『……た、立ち話もなんなので……!! 』
見ず知らずの男を、部屋に入れていた。
「ち、散らかっててすみません……」
(……っていうか、下着……!! )
干しっぱなしだったものをまとめて腕に抱えると、とりあえずクローゼットに放り込む。
(……見えてないはず。そうであって、お願い)
男じゃなくたって、今の時代、子供でも他人を家に上げるなんて。
でも、仕方ない――と思いたい。
だって、こんなに背が高いのに、なぜか見上げられてあんな懇願するように見つめられたら。
もともと耐性もなく、おまけに最後がいつだったかなんて、とっくに忘れてしまった女なんだ、私は。
「と、とりあえず……座ります? 」
どうしよう、どうしようどうしよう。
とにかく、ここまできたらお茶の一杯でも出したら、飲み終わる頃には気の迷いだったと帰っていくはず。
「あ、どうぞ……っっ」
遠慮してるのか立ったままの彼に声をかけて、ようやく彼の視線が床の一点に集中してることに気づく。
「す、すみません……!! 」
拾いきれず腕から落ちたのか、床にはパンツ。
咄嗟に謝って、ぐしゃぐしゃに手の中で丸めたけど。
(……って、なんで、私が謝ってるんだろう……)
訳分からないやるせなさが襲って、チラッと見上げると、そこには染まった頬がある。
視線に気づいてブンブンと首を振るのを見たら、それもどこかへ行きそうになるくらい可愛いのは確かだ。
若いと言っても私よりすごく下ってだけで、子供ってわけじゃない。
こんな下着一枚見て赤くなるなんて、本当に私が好きなのかな――……。
(何考えてるの)
万一そうだとしても、歳が違いすぎる。
何か辛いことがあった時に、たまたま私を見かけたとか。きっと、そうだ。
くしゃくしゃの下着を投げ入れたバッグを隅に寄せ、コーヒーを淹れた。
名前も知らない人の好みなんて知るよしもないけど、彼は両手にカップを包んでふーふーしながら飲んでいる。
「……あ、あの。それで、一緒にいるとは……」
いや、首を傾げられても困る。
具体的なことを言われても困るんだけど、終わらせるには始めないといけない。
『何かしてほしいこと、ありますか』
「な、ないよ」
『ほんとに? 』
スマホに表示される文字に答える。
流れるように次々打たれる字は、もしかしたら声で聞くよりもスムーズかもしれない。
「本当に! 第一、何かってなに……」
『なんでも』
「たとえば? 」
『僕が聞いてるのに。んと、たとえば』
……えっちなこととか。
「……っ、する気ないでしょ……」
やっぱり、からかわれた。
それか、そんな困ってる女だと思われた。
悲しいしムカつくけど、それは当たり。
だとしても、絶対そんなお願いするもんか――……。
『めちゃくちゃあります』
「絶対、嘘……!! 」
そんなことして、彼に何のメリットがあるの。
酷い悪戯だとしか思えない。
『好きな人相手に、ないわけない。ある。めっちゃある。していいならしますけど、いい? 』
なのに、どうして。
その目は本気に見えてしまうんだろう。