おいで、Kitty cat
雨が窓を叩きつけている。
激しい音に吸い寄せられるように窓辺に寄る私に、永遠くんは何の反応もしなかった。
(……ううん)
違う。
見つめられているんだ。
無表情だけど、少し離れたところからじっと。
雨が降りだしたのが「家に着いてからでよかったな」と思ったのは本当だけど、「濡れなくてよかった」よりも「また二人でびしょ濡れになったら、どうしていいか分からなかった」とほっとしてる私を、まるで観察するみたいに見つめてる。
「逃げないでくれる? 」
「……え……? 」
その視線に気づかないふりをするなら、永遠くんがすぐそこまで近づいてきていたことも気づいてちゃいけない。
「結婚してくださいって言ったら。さくらは、ちゃんと受けてくれるの」
振り向いたらダメ。
背中から窓に伸びてきた腕に、今気づいたって顔して。
「俺ね、怖がりなんだよ。どうしたら、さくらにもっと好きになってもらえるか、そればかり考えてたのに。最近は全然違う」
「…………」
窓に打ちつけられ、弾けた末ぺしゃんこになった雫を目の当たりにして、なぜか涙が込み上げて止まらなかった。
「逃げないで。断らないで。どうしたら、ずっと俺といてくれるのって思ってる。怖くて言えなかったんだ。それって、さくらと同じで合ってるかな」
俯くのを許してくれなかったくせに、「泣き虫だよね」って笑う永遠くんは意地悪だ。
「目標が結婚じゃなくてもいい。そう思ったのは本当。でも、永遠くんと結婚できたらいいのにって気持ちを全否定したのは、大嘘で強がりで」
――怖くてとても確認できないゆえの、自己防衛。
「……やめよっか」
ピクンと肩が震えたのを見て、なぜかすごくびっくりして。
しばらくして合点がいったのか、ふっと笑って――ぎゅっと抱きしめてくれた。
「お互いにいい顔するの。どんなに怖がったって、その場をやり過ごしたって。結局どっかですれ違って……さくらにそんな顔させる」
「……永遠くんだって、そんな顔してるよ」
笑ってるのに、どこか悲しくて切なくて――何かに焦れるのを我慢してるみたいな。
「……なんだ、そっか」
この衝動を堪えきれなくなったら、ずっと大切に抱えていたのものを一瞬ににして失ってしまいそうで怖い。
「ん……」
でも、もう無理だって。
このままじゃいられないって、半ば諦めたみたいなそんな顔を私もしてるのかな。
「バレちゃった」
隠す意味なんて、なかった。
敏感に察してくれる永遠くんに、いつまでも隠せることじゃない。
そんなの分かっていたけれど。
それでもいい顔していたかった自分を、責めようとは思わない。
でも、後悔しているのは事実で、永遠くんも同じ気持ちでいてくれるのなら。
――私たちは、先に進んでもいいってことだ。