おいで、Kitty cat
もちろんいい意味で、嬉しいことではあるけれど、想像と違ったって言ったら怒られるかな。
想像どおり、永遠くんは優しかったけれど――これまですごく耐えてたんだって伝わるようで、私だけじゃなかったんだってほっとしたからだ。
「なに……? 」
宙に浮いたままの指先をじっと見ているのは気づいていたけど、どうも行動できなくて。
「な、何が……っ」
(……だって)
永遠くんの肌は白く皮膚も薄そうで、私の方が触れるのを躊躇ってしまう。
「掴まるか突き飛ばすかしないと、俺は見て見ぬふりしちゃうかもよ」
まるで、小さな子どもの手に触れるみたいに、その指先を摘まんですぐに離した。
「どうするの」って選択肢をくれる永遠くんには、ちっとも年下感はない。
真上にいるのは、今触れ合っているのは、意地悪で優しくて、私を大切にしてくれるただの恋人だ。
「この期に及んで、寝るには年下すぎるとか言ったりするの? 」
「……っ。その顔で、今更年下ぶるつもり? 」
彼らしくない直接的な言葉に反論が遅れた私を、楽しそうに見下ろしてなお、その手の行場を作ってくれない。
「まさか。年下だからって言われるのは懲り懲り。でも、俺にとってプラスになる時は、利用したい……かもしれない」
「かもしれないって、本当に思ってる……!? 」
そのくせ、私の髪を弄ったり頬を突いたり、首筋を擽ったりはするのだから、私の彼氏は実は大概意地悪好きだったのかも。
「……ね。年齢なんて、関係ないでしょ。さくらは可愛いし、俺はそんなさくらに意地悪するの、わりと好き。そのどこにも、歳で変化するものは何もないよ」
「わ、わりと……!? 」
これで「わりと」なら、意地悪全開にでもなろうものなら、確かに年齢なんて関係なく単純に耐えられない……のに。
「そう。わりと、だよ。……“もっと優しくできたらいいのに”はいつもいっぱい思ってるし、笑ってくれるさくらを見るのは、比べものにならないくらい好きだから」
なのに、どうしたらいいの。
「……っ。さ……」
――私こそ、そのどっちもすごく好きだ。
「大好き」
自分の名前を呼ぶ声すら、遮ってしまうくらい。
恥ずかしがってたのが嘘みたいに、ぎゅっとしがみついてしまうくらい。
永遠くん本人は比べられても、私の方はどっちの永遠くんも比べられないくらい好きだ。
「知ってる。でもね、俺が年下だから、さくらが年上だから今だけ、なんて思わないで」
これ以上ないくらい、ずっと静かにしか鳴らなかった私の心臓が保つのか心配になるくらい、搖さぶられるから。
こんなにも求めてる人に求められることが、未来に続いていくと信じるのが怖かった。
いつか来るかもしれない大打撃に耐えられるとは思えなくて、手を伸ばすどころか後ろ手に引っ込めて。
「俺の気持ちも知ってるなら、先を見てよ。どんなに年下でも、子どもじゃないんだ。想像できないほど、遠い未来じゃない。……ダメ、かな」
ダメなんかじゃない。
嬉しい。
勇気を出すには十分だって、せめて首を振ろうとしたのに。
「……ごめん、違った」
「……っ」
塞がれて、絡め取られて。
「……ダメなんて、もう言わせる気ない……」
――私は、それすらもする必要がなかった。