おいで、Kitty cat
空色の下で、きみと。
すやすや。
あんまり口にはしない表現がこれ以上ぴったりな寝顔は、他にないと思う。
少なくとも、私が見れた寝顔では、きっと。
色素の薄い髪にも、今は閉じられていて見えない瞳にも、綺麗な肌にはもちろん、部屋のライトは明るすぎるようで。
どこにあるか考えもせずに、とりあえずリモコンを求めて伸びた腕は、大して目当てのものを見つける努力もせずに空を切った。
(……本当に、綺麗だな)
天使――とは、さすがにこの状況では思えないけれど、自分の脳内がちょっと嫌になるくらいには清廉なものに見える。
(でも、人間なんだ……)
最愛の人の側にいて、変な感想。
でも、「年下」なんて名前の生き物はいない。
抗えなくなった気持ちを正当化してるって、世間は言うかもしれない。
それでも私だって、「年上」なんて名前で生きていないんだ。
どんな状況や、どの世界に私たちがいたとしても。
勝手に名付けられて、比べられて、区別される謂れはない。
「……やだ」
「……っ、ご、ごめん……!! 」
必要なのは、ただ、それを知るだけ。
この世界は、型に嵌まれない人間に厳しい。
少しずつ、少しずつ。
そんなの待てないと叫びたくなるほど、あまりにのんびりその型が変化して、緩くなっていったとしてもそれは同じだろう。
だからこそ、自分のなかで宿していなければ壊れてしまう。
そう決意しながら、私はそろそろと彼を撫でていたらしい。
「違うよ。くすぐったいから、やだ。……くすぐったくない触れ方にして」
慌てて手を離すと、不満だとオーバーに拗ねてみせる。
「……と、とは」
「だから、さっきみたいなの。俺の名前呼んで、ぎゅーってして……気持ちいいの? 」
「き、聞き返されても知りません」
そんなふうに、意地悪に喉の奥で笑うんだ。
「うそだ」
ああ、嘘だった――……。
軽く抱き寄せられただけで、さっきまでの状態に戻ってしまうのだから。
「ん。こっちのが好き……」
(……甘えんぼの色気って、すごい矛盾……)
大きな仔猫だと思って撫でかけたのを、いやいや、そんな可愛いもんじゃないって。
「……あれ。なんでやめちゃうの。ね、撫でてよ」
ふわふわ撫でてしまって、ふっと丸い目が細くなったのに気づいた時にはもう遅い。
「ま、また騙した……! 」
「言っといたもん。俺は、何度でも騙すし利用するよって。可愛い仔猫の永遠くん、さくらにはまだまだ、有効みたいだから」
(にゃあ、って言えば、しれっとキスしていいわけじゃないんですからね……!? )
いや、別に……キスしちゃ悪いわけじゃないけど。
可愛い小動物の真似なんて、別にいらないけど。
「なんで拗ねるの。変なさくら」
拗ねたのは、自分の思考に対してだ。
でも、もう一度唇を落として「なんで」を尋ねようともしない永遠くんには、ほんのちょっとムカついてる。