おいで、Kitty cat
聞きたいことというか、気になってることがある。
それを尋ねるにはあの日に遡らないといけなくて、私も逃げないって決めたのに、つい躊躇してしまっていた。
「あのー、ね。……もしかして、妹と話した? 」
それ自体は、別に大したことじゃない。
また何か言われたんじゃないかと心配したけど、どうもそういうことじゃないみたいなのだ。
「えっ、あ……うん、ごめん。な、何か言ってた……んだよね。その……な、何て……」
「謝ることじゃないよ。寧ろ、謝ってたのはむこうで、それ以外は何も。ただ、なんか様子が変だったから、気になって」
そう。
いきなり謝りに来てくれたと思ったら、
『ごめん……! この前のことは忘れて。あの、えっと……応援してるから……! 』
――って、なぜか、真っ赤になって走り去ってしまった。
「あ、言いにくかったらいいの。何か変だなって思っただけだから」
「え、いや、そうじゃないけど……その」
『それは、つまり』
パッとリュックを抱き上げて、ポケットの中からスマホを取り出した。
(あ、久しぶり)
永遠くんの声も好きだけど、出会った頃を思い出して懐かしい。
あれからそんなに経ってないのに、変なの――……。
「……だから、ダメだって」
「……え……ご、め……」
普段の彼よりも、びっくりするくらい低音。
驚きすぎて、無理に聞き出そうとしてしまった謝罪すら上手く出てこなかった。
「……!! ち、違……い、今のナシ」
「え、で、でも……」
嫌だったんじゃないのかな。
ブンブンと首を振る永遠くんの声は、いつもどおりに戻ってるけど。
「……あの……もしかして、今まで無理してた……? 」
「ちちちち、違うってば。今の、独り言。さくら用じゃない……聞き間違い」
「…………でも…………」
(声色や口調に、聞き間違いも何もないと思うけど……)
さっきのが地声だった?
もう一回聞いてみたいなと素直に思ったのもあるけど、何より無理して優しく喋ってたのなら、きつかったんじゃないかな。
「そ、それより。ダメって言ったのは、筆談に頼りすぎること。大事なことは特にダメって思ってる」
「文字でも伝わるよ。それに、今までだって、永遠くんが大事だって思ったことは、言いにくくても声で伝えてくれてたのは知ってるから」
記憶を遡れば遡るほど、ところどころ詰まったり筆談が合間に入ることはあった。
それでも「ここだけは」というところが永遠くんのなかで必ずあって、それは必ず優しい声色に乗っていた。
「そっ……か。ん……見ててくれたんだね」
「永遠くんが伝えてくれたからだよ」
一生懸命教えてくれようとするのは胸を打たれたし、疑り深い私でも本心だって信じられたのは永遠くんのおかげ。
「うん。だから……これからも、ちゃんと言うね。……俺ね、この前さくらを迎えに行く前、妹さんに会ったんだ。それで、つい」
『……つまり、俺が言いさえすれば、さくらの返事は“はい”なの? それなら、今すぐにでも言いたい。だって、俺の方なんだよ』
――彼女がそう言ってくれるのを、俺はずっと待ち焦がれてる。