おいで、Kitty cat





・・・




(……どうしよう……)


昼休み。
いつもどおり、ぽつんと席に着いて広げたお弁当を見て溜息が漏れた。
吐息が重いのか、想定していたよりも軽いのか。
モヤモヤしているのに、長いこと忘れていたみたいな甘酸っぱさもある気がして、自分の気持ちがまったく分からない。


『……あの。はい』


永遠くんから渡された包みを見て、きっとまた混乱した表情を浮かべてたんだと思う。

「勝手にごめんなさい。よかったら、食べて」

差し出されたスマホを見るよりも早く、掌にある重みや温かさでとっくに分かってたはずなのに。
お昼になってお弁当を開けてもまだ、訳が分からなかった。

材料が同じとは思えない、私が作るよりもずっと美味しそうなお弁当。
私もそこまで料理が下手ではないけど、永遠くんが作ってくれたのは遥かに丁寧だ。
何が違うって、言葉にするのをいくら躊躇ってもはっきりしている。

――私にかけてくれた時間と、愛情。


「……どうして……? 」


声に出てた。
誰にも聞こえないくらいの小さな声だったけど、一度口から出してしまえば、もう「どうして」よりも他のことが心を占めてる気がする。


(……声なんて、こんなに関係ない)


それほど、永遠くんの笑顔がずっと消えなかった。
昨日会ったばかりの、同じ世界に住んではいても交錯はしないだろう可愛い男の子の。


『……一緒に食べよう』


朝ごはんまで、それも、私の分だけ準備してくれてた彼にお礼すら言わないで。


『え……? 』


無意識に声になった疑問符に、慌ててスマホをタップするのを制止されて、全然そんな時じゃないと思うのに。


『……ん。半分こ、してくれる? 』


言葉にしたのが、本当は辛かったのかもしれない。
なのに、笑ってくれたその顔が――優しくてあったかくて――もう何度目か、告白されたんだと錯覚した。

ううん。

告白されたんだ。
半分に割って、ちょっと崩れた目玉焼きを嬉しそうに見つめる永遠くんの笑顔は、「好き」に溢れてた。
その視線が優しすぎて、味なんてちっとも感じないと思ったのに。


「……美味しい」


朝ごはんも、少し震えたお箸で摘まんだお弁当も。
やっぱり、どうあっても愛情たっぷりで美味しかった。


(……どうして、私なんか)


好きになってくれた理由は気になって仕方ないけど、それを知って何ができるのかも分からなかった。


『信じて』


無条件の信頼を置けるかと言われると、まだ言葉にできない。
でも、同じくらい疑えなくて声にならない。

永遠くんはいい人だ。
だから。

私がもう少し若かったら、何も考えずに飛び込めたのかな……なんて。
答えが分かりそうになっては思考停止する自分を、クリアにしてしまいたくないから。




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