おいで、Kitty cat
(……ほのぼの……)
いや、違う。
ううん、違わないけど、この状況は異様だ。
隣の部屋の男の子が、もともと知り合いでもないのに私の部屋で寛いでるなんて――ごはん作っといて言うことじゃないけど。
「……永遠くん」
湯呑に両手を添えて、熱いのかちびちびお茶を飲んでいた彼が首を傾げた。
「……きょ、今日はどんな一日だった? 」
(……なに、その質問……)
きょとんとした永遠くんがじーっと見つめてこなければ、その場に崩れ落ちたいくらい間抜けな質問だ。
『仕事してた。終わってからは、のんびりさくら待ってた』
「そ、そっか」
私だって、「今日どうだった? 」なんて聞かれても、仕事の他には特に言えることはない。
『仕事』
『リモート』
でも、永遠くんはそれじゃ不十分に思ったのか、そう教えてくれる。と、言うより。
「うん」
誤解させたかもしれない。
「働いてないの? 」の意味に取られたんじゃないかと、慌てて、慌てないようにさりげなく頷いたけど。
『チャットだと楽』
永遠くんは気にしてないよって、優しく笑って首を振ってくれた。
まただ。
永遠くんの笑顔は優しくて、あったかくて、切ない。
私の浅はかさなんて全部分かってて、許してくれる。
そんな彼を何となくでも理解してきた気がするのに、また繰り返してしまった。
『そんな顔しないで。さくらのおかげなのに』
「え? ……そんなこと」
思い当たることなんて一つもなくて、すぐに永遠くんが気を遣ってくれたんだと結論づけたけど、彼は更に首を振った。
『励ましたんじゃない。事実。さくらが忘れてても、さくらにとっては日常すぎて、なんてない一瞬にも満たない出来事だったとしても、俺は』
「さくらのおかげで、生きてる。……ごめん、重いね」
口は開いたけど、声にならなかった。
どう反応していいのか分からないのをごまかすみたいに、真似して首を振るしかできない自分が嫌だった。
「……ううん」
『別に、死にかけたとかじゃないから、この言い方はちょっと違うかも。さくらのおかげで、楽しく生きれてる、かな。どっちにしてもヘビーすぎるけど』
いいんだよって。
戸惑うのも無理ないんだよって。
慰める為に肩に乗った指先が、どうしていいのか迷うみたいに硬直したままなのが不器用で泣きそうになる。
『恩人なのは本当。でも、好きになったのはそれだけじゃない。どうして、尊敬とか憧れの枠に収めておけなかったのか、自分でもめちゃくちゃ悩んだ。でも』
「そんなの考えても意味ないくらい、俺にはあなただった」
好きな人がいたら、見える世界に色がつくんだ。
『そんなの嘘だとか、ただの比喩とか思ってたのが違ったんだって、さくらに会って知った』
――本当に色づいたんだ。どうしようもないと思ってた、俺の世界に。