おいで、Kitty cat
かあっと。
頬や首が染まる音が、耳を通り越して脳で直接鳴った気がした。
永遠くんの甘い表現が、全身を巡ったからかもしれない。
彼の綺麗で優しい言葉に比べると私のは随分生々しくて、ちっとも綺麗じゃなかったけど。
『あなたなんです』
また、そう告白してくれた。
私の認識で初めて会った、あの時と同じ。
なのに、身体は今の方がずっと熱い。
「あ、あの、その……な、なんで……!? 」
永遠くんは本気だ。
騙したり、からかったりするタイプじゃないことは、もう疑いようがない。
それから、この逸れることはないひたむきな愛情も。
だから、裏返った大声で尋ねるのは、もうそれだけ。
「ん、と……」
『隠してるわけじゃないん』
私が読んだか読まないか、ディスプレイに記された文字はすぐさま消されて。
『隠してるかも。ダサいの、思い出してほしくなくて。なさ』
素直な返事も、途中、また消えてしまった。
でも、この想像が当たってしまっていたら。
――情けなくて。
「そんなことないよ。永遠くんが自分をどう思っても、私は永遠くんをそう思わない」
告白の返事は、まだできなくても。
それだけは、確実に言える。
こんなに伝えてくれる永遠くんを私こそ尊敬するし、憧れも抱く。
「……それ、好きだよね。いつも同じだから、覚えるの早かった。俺も好きになるのも」
デザートに買ってきたコンビニのアイス。
テーブルの上に置かれた、コンビニのロゴをチラリと見てすぐに私に目を戻した。
『俺、いたんだよ。温めますか、っていうの、さくらはあんまり買わなかったから。会話らしい会話……にもなってなかったけど。話したのは、助けてくれたあの時だけ』
頭で整理する必要もなく、隠してないという言葉どおり、永遠くんはすんなり教えてくれた。
「気持ち悪いかも。でも、今日これが二個目の前にあるの見て、俺、すごく」
――ドキドキしてる。
・・・
疲れた。
通常運転だ。
ごはんは食べたくなくても、てっとり早く甘いものが食べたいくらい。
そんな時、つい買うものは誰でもあると思う。
私の場合は、このコンビニにしかないこのアイス。
へろへろなのに、マンション通り越してコンビニまで歩ける謎。
ほぼ何も考えられないのに、目当ての場所まで辿り着き、無でアイス目がけて手を突っ込める不思議。
レジで順番が来ると、店員さんがペコリと頭を下げて、つられて私もペコッとしたのが何か恥ずかしくて、ちょっとだけ意識が戻ってくる。
(あれ)
なぜか、バーコードが上手く読み取れない。
何度も試しでくれるけど、どうしてもスキャンできなかった。
また下げた頭が上がった途端、急いでアイスのコーナーに走り――途方に暮れるみたいに立ち尽くしてるのを見ると、それが最後の一個だったと予想がついた。
「……あ、えっと……」
よろよろとこっちに戻ってくる彼を見ると、何だか申し訳なくなってきた。
別に、どうしてもそのアイスがないと生きていけないわけじゃないんだし。
幸い、私の他にお客さんいないし。
「あの、他ので……」
「何やってんだ!! すみません、お待たせして……」
店長らしき男性が、バックヤードから出てきたとたん、怒鳴りつけてきた。
(いるよなぁ、こういう人……)
大したことでもないのに、お客さんの前で叱り飛ばして声と顔を変える偉い人。
こういうのに遭遇する方が、余程嫌な気分だ。
そんだけスムーズにピッとできるなら、怒る前にさっさとやってくれたらよかったのに。
でも、私も怖い顔に見えるのかも。
元々無表情だし、仕事で疲れて恐らく悪化してる。
その証拠に、首痛くないかなって心配になるくらい男の子は頭を下げようとするから。
ストップ。
君は何も悪くない。
「いえ、全然。……これ、どうしても食べたかったの。ありがとうございます」
手渡してくれたアイスは、ちょっとだけ溶けたかも。
でも、この後の私のリラックスタイムは、彼のおかげ。