Sherry~君の傍にいつまでも
歩くスピードが以前より遅くなってしまったローズ。きっと今まで少しだけでも見えていた視界が更に狭くなり、今はコイン一枚より小さな光だけが感じ取れると話していた。
その不安と絶望が、白杖を持ちながら僕と並ぶ散歩にも影響し始めていた矢先だった。
その日の天気は、雨が今にも降り出しそうな雨雲が空を覆っていたね。雨の匂いが直ぐ傍まで来ているのは君も気付いていただろ?
散歩に行こうと声をかけたローズに恨みも後悔もない。だってこれが運命ならば、病気と知っても抗わなかった君のように、僕も受け入れる。
キキキーーーーー!!!
今まで聞いたことが無いタイヤの甲高い車のブレーキ音が近くて遠い場所からどんどん近づき始め、経験上、明らかにゆっくりと歩く僕達がいる所に接触するだろうと気付いてしまった。
ローズにも聞こえているその音に、見えない視界で顔を左右に動かし慌てている様子だった。
このまま二人で轢かれてしまえば
このまま二人で一緒に死ねたなら
魂がキラキラと浄化され、永遠にいつまでも君と入れるなら
君の笑顔を、一人占め出来るのなら
迷って迷って、きっと一秒前でも悩んで出した答え。
でもローズ、誤解しないで欲しいんだ。あの距離から迫り来る車を、どんなに計算しても選択肢は二つだけ。
二人で死ぬか
僕だけが死ぬか
僕は君の全てを守ると、一緒に暮らすと誓ったあの日から。いや違うな、初めて君と出会ったその時から、僕の命をかけても君を守ると決めたんだ。
僕が出した決断は、後者だ。
体格の良い僕が持っている全ての力で、動揺して緩んでしまった手の隙に、彼女の背中を思いっきり突飛ばし、その衝撃で二歩三歩程進んだのをスローモーションのように動く彼女を確認したと思った瞬間、
ドンっ!!!と、今まで体験したことのない重くて強い衝撃に、身体を前方に吹っ飛ばされた。
そして蝶のように宙に舞った僕は、再び強い衝撃で地面に叩き付かれる。
「オーブリーーー!!!!」
あまりの突然のことに、震えて動けない彼女とそれを見ていた通行人が叫び始めた。
「盲導犬が轢かれたぞ!!!」