Sherry~君の傍にいつまでも
「酔っぱらい運転か!?」
「運転手は生きているのかよ!?」




 ガヤガヤと通行人が集まってくる。

 ローズの耳の直ぐ傍で衝突した音で、僕が轢かれたのは気付いてしまっただろう。

「お願い誰か!!見えないの!オーブリー!!誰か私を彼の近くまで!誰か!」

 彼女が酷く動揺した叫び声で周りに助けを呼ぶ。その緊迫した状況に、集まる通行人がローズの手を引きながら僕の傍まで連れていってくれる。

「オーブリー!!」

 彼女が僕の顔の直ぐ傍まで近づいてる筈なのに、おかしいな。声がどんどん遠くなっていく気がするんだ。

「お願い……返事して!オーブリー!!」

 ローズ。
 わかるんだ、きっと僕は助からない。運良く今意識があるのも、それもあと、もって数分だろう。
 身体の中が熱くて、背中や腰の骨が粉砕して内臓から流れる出血がコンクリートを染めていく。

 触らなくていい。君の綺麗な顔に、僕のドロドロした赤い血で君を汚したくないんだ。
 安心してくれローズ。痛みはもう感じない。
 だから君が思っているその心配はいらないよ。


 それなのに、
 僕には君に伝える人の言葉を話せる事は出来ない。いつもいつも思っていた心の声を、伝えられたらどんなに良いかと切に願っていた。
 僕は言葉も話せない、君のように二足歩行で歩くことも出来ない。

 その涙を、僕は舐めてあげることしか出来なかった。
 だけど今はもう、それすらもしてあげられない。だからローズ、泣かないでくれ。


「誰か……誰か彼を助けて……」

 崩れ落ちて声にならない彼女の声を、もう聞こえなくなった。

 彼女の世界のように、僕の視界も真っ暗になってきた。
 怖いよね、何も見えなくなってしまうのは。だけど安心してくれローズ。

 君の稀有な才能。お菓子のように甘くてとろける君の笑顔、君が夢だと話した子供のことも。きっときっと君が経験した辛い思い出を糧にして、成功することを祈っている。





 大丈夫。
 君なら出来る。君がこれから訪れる困難も、君なら乗り越えられる。

 僕が唯一愛した人だから。






 ローズ、愛してる。


 ローズ、愛してる。




 ローズ、愛し……






 「オーブリー!!!!!」






 ポツリポツリと空から降ってくる雨の雫に、濡れていくローズを誰か暖めてあげて。彼女は寒がりだから、きっと震えてしまうから、誰か僕の愛しい人を……暖めてあげて下さい。


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