Sherry~君の傍にいつまでも
彼女の名前はローズ。
僕と初めて会った天気は、霧が少しかかった曇り空だった。
ローズは白杖を持ちながら、比較的凹凸の少ない歩道を歩いていたが、柔らかい髪の毛をなびかせながらゆっくり歩くその姿に、僕はまるで羽をつけたキューピッドに矢を射たれたかのような胸の高鳴りを隠すことが出来なかった。
ローズに先に「こんにちわ。調子はどう?」と、声をかけたのは僕の同僚。
本当は先に僕が声をかけたかったが、彼がスマートに女性に声をかけるテクニックには敵わない。
ローズは、声をかけられた僕らにニッコリと、まるで窓から差し込む暖かい朝陽のような笑顔で「こんにちわ」と答えてくれた。
何ともとろけそうな可愛らしい声が、その笑顔と一致していて、今までどんな時も冷静さを保つ指導を小さい頃から受けていた筈なのに、思わず本能のままローズの前に足が向かってしまう。
「おいおいオーブリー珍しいな。君が興奮しているのは。だが少し女性の前で失礼だぞ」同僚が僕をからかい、ローズがクスリと笑う。
「すまない、つい……。」ローズの前で謝る仕草をすると彼女は僕の顔を探るように手を差し出す。
「はじめまして。貴方はオーブリーというの?素敵な名前ね。私はローズよ」
盲目の彼女の差し出された手を、拒否するのはあってはならない事なので、僕はその手の行動を黙って見届けた。
僕の顔をサワサワと触り、そして僕の生まれつき母親譲りのクリーム色と金髪が混ざった髪の毛を撫でてくれる。
「きっと素敵な瞳なのね。見えなくてもわかるわ」
白杖を持ちながらローズは微笑み、僕はその姿に全てを確信したんだ。
あぁ僕は……
きっとローズと会う為にこの世に産まれてきたのだろうと。
厳しい指導も、心が折れそうな教育も、全て君の為にと。