Sherry~君の傍にいつまでも
これが僕と彼女の出会いだった。
ローズは後天性の目の病気であり、最初は皆と同じように空が青いことも、山々は緑だということも知っていた。
しかし、目の違和感に気付いた時にはほぼ手遅れだったらしく、同じ病気で視力を失った身内もいることから、その逃れられない運命には抗わなかったと話してくれた。
彼女のように若くしてこの病気で視力を失うのは稀であるが「全てが暗闇に包まれているわけじゃないわ。夜の世界は当然だけど、朝の世界も極一部だけど感じ取れるもの。貴方の髪色が明るいのも本当は見えていたわ」と、僕と並んで歩いている時に話す会話を僕は黙って聞いていた。
「でも……いつか本当に私の世界が、黒に染められてしまうのは……少しだけ怖いわ。この白いキャンパスがいつか黒になってしまうのね」
彼女は小さな頃から絵が元々好きだったのもあるが、画家の父親の影響が一番大きいと話してくれた。
彼女のアトリエ兼自宅の部屋に招かれた時は、少し散らかった床に、キャンバス。テーブルの上にはパレットと沢山の絵の具。
「あら?この匂いは初めて?」
少し鼻に染みる。と、ついくしゃみまでしてしまう僕に彼女が笑う。
絵の具かと思っていたその道具は油絵具と教えてくれたが、芸術とかけ離れた僕にとってその違いはわからない。
「こう見えてあと数年、生活費を賄えるくらいの評価は受けてるのよ?ただそれも…いつまで続くかな」
「……。」
「今はここだけ、ここまでは少し見えているの。だけど…もう細かい色の判別は難しくなった気がするの。今日の天気の色もブルーなのかライトブルーなのか分からなかったわ」
キャンバスに置いてある厚くて白い紙を指でなぞり、寂しそうに僕に話してくれた。だけどその姿に、天から与えられたこの感情を、沸き上がるマグマのような情熱を抑えられず、君の身体に寄り添う。
僕は君の目になりたい、君の為に僕の命を捧げたい。君が望むなら、本当は僕の目を君に渡してあげたかった。
だってこの出会いは神様からの贈り物だろう?