Sherry~君の傍にいつまでも
夏の夜の会話は僕の中でとても印象に残っていた。寝つけないのか、ローズが手探りでゆっくりと足音を忍ばせ、窓に近付こうとしている。彼女は夜の視界は昼間より悪く、いわば目を瞑って歩いているのと同じだろう。
「あら?オーブリー起こしちゃった?」
正直仕事で疲れた僕は、横になるやいなや、グッスリと寝ていた筈が、彼女のスローで歩くその動作でよく起きたものだ。
「私には見えないけれど、この夜空には無数の星があるのよね」
「……ふぁ」
「フフ、オーブリー。疲れているんだから寝ていても良いのよ」
思わず欠伸をしてしまったが、身体をゆっくりと伸ばしてローズの傍に近寄る。
「小さい頃に母と父と、星空の綺麗な湖に行ったことがあるの。あの時見た無限に広がる星空は、言葉では言い表せなかったわ。あの星って何万光年も離れているから、この見えている星達は何万年前にある輝きと聞いた時は耳を疑ったわ」
「……」
「今現在、私達の時間を見守ってくれている星達は、増えているのか減っているのか誰にもわからないのよね」
ローズは見えない星空を眺めていたが、それは僕も同じ。
僕も実は色盲という、色の判別が著しく出来ないのだ。職種的には実は特に問題無いのが幸いだが、何処から誰に聞いたのか、僕の色盲にローズが酷く驚いた時があった。
星が見えないローズに、星の色を認識出来ない僕。だけど、輝き続けるその星空を、いつまでも僕らは肩を並べて寄り添う。
「叶わないと思うけど……私に赤ちゃんが出来たら貴方はきちんと育児をしてくれるのかしら?」
突然のローズの台詞に僕は彼女のお腹を確認すると同時に、まるで僕に子育てが出来ない言い方になんだか少しムッとする。
「あら!怒ったの?そういう意味で言ったんじゃないのよ?流石に私が子供を持つなんて夢物語だけど、貴方と私で子供を育てられたらどんな子供になるのかなって」
まるで天使のような子供になるよ。君に似て、君と同じ笑顔で笑い……泣いた顔まで一緒になるだろうね。
本当は口に出して言いたかったのだが、仕事に疲れて襲われる睡魔についウトウトしてしまう。
「将来的に目が完全に目が見えなくなる私がママになるなんて、天と大地がひっくり返してもあり得ないことだけど。……もう寝ましょう」
あり得ないこと。
子供が欲しいと最後まで言えないのは、彼女は自分の心にブレーキをかけているのだろう。
そんなことない。ねぇ、ローズ。そんなことは決してないんだ。
君が話してくれた何万年前の星が今輝いている方が奇跡じゃないか?
君がママになる夢は、決して奇跡なんかじゃない、もっともっと手の届く夢の筈だよ。