Sherry~君の傍にいつまでも

「ねぇオーブリー。貴方の絵を描いていいかしら?」

 窓からシンシンと降ってくる雪に、毎日の日課の散歩以外は外出を控えているローズ。僕も寒いのは嫌いで、暖かいストーブの前で横になっている時に声をかけられる。

「ホラ私、この眼だから上手に写真が撮れないし、それなら私の手で貴方との時間を過ごしている証として、貴方の絵が描きたいの」

 仕事に疲れて横になっていたが、彼女の発した言葉によっこいしょと身体を起こして彼女の顔を見るが僕はどんなポーズを取っていいのかわからない。

「アハハっ。オーブリー緊張しないで、寝てた所悪いけど貴方の正面の顔だけでいいのよ。…顔は違うかもしれないけど、私が出来る最高の贈り物を貴方にプレゼントするわ」


 ローズ。
 そんなこと言わないで。僕は君と毎日居られるだけでこんなにも幸せなのに、君が笑い、君が怒り、君が落ち込むその姿を僕の前で素直に出す、その感情豊かな君の姿が僕にとって毎日贈り物を貰っているんだよ。

 この世界に君と僕の二人だけになってしまえばどんなに幸せか。
 邪魔者も居ない、ローズを蔑む者も居ない、僕だけが君を永遠に愛して、彼女も僕だけを必要とするそんな楽園みたいな場所に連れていってあげたい。

 こんなもの、醜い野望なのは分かっている。本当は僕以外の男と話して欲しくない。挨拶代わりにする握手ですら、嫉妬の感情におかしくなってしまいそうになるんだ。

 いつかもし、君が僕を必要としない日が来ることを

 考えただけでも気が狂いそうになる。


 電車が来る瞬間に君の背中を軽く押し、僕もその場に飛び込めば……。きっと僕達の魂は、カラフルに見える色とりどりの花畑をずっと君と眺める事が出来るんじゃないかなんて、歪んだ感情を胸に秘めていることを。

 君は知るよしも無いよね。


「素敵よオーブリー。貴方のその誰よりも勇敢で美しい顔をいつまでも残せるなんて、私は幸せよ」

 僕を見ながらキャンバスに置いてある真っ白な紙に、パレットを持ちながら僕の顔を描いていく。
 絵の中の僕も、こんな風に欲に駆られているのかい?

 数日かけて完成させた絵の中の僕は、純粋な瞳で笑っていた。




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