君がいない
朝。
君はいつも、あたしより先に起きる。
キッチンでコーヒーを淹れる香りが、寝室のドアの隙間から入り込んできて。
あたしはその香りに包まれて、長い夢から目を覚ます。
「……おはよう」
「おはよう。顔を洗っておいで」
君はいつも、母親のようなことを決まって言う。
年下のくせに。
腹立たしいわ。
けれども……。
男のくせに、毎朝エプロン姿でキッチンに立つ君を見ていると、すべてが帳消しになる。