運命の人
恋人?
玲サイド

 『嫌なわけではないです。でも』

 そのあとの言葉を彼女は飲み込んだ。
 なにが言いたかったのか。
 断りたかったのだろうか。
 『和菓子作りに一緒に行くお相手に困らないでしょう?』という言葉も遠回しの断りの文句だった。

 恋人がいるから?

 駅で彼女と一緒にいた背が高くて短髪の爽やかな好青年。
 彼女のことを名前で呼び、彼女に触れていたあの男。
 思い出しただけで苛立つが、あの男が彼氏で、彼が気にするから和菓子作りには興味があるけど断ろうかと思った、と考えるのが自然だろう。

 でも最終的に彼女は行くと言った。
 恋人がいるのに他の男と出掛けたりするタイプには思えないけど。
 だとしたらなんで…
 
 「…って、なにしてんだ、俺は」

 考えても答えが出ないことは分かりきっているのに、さっきから同じことを何度も考えている。
 彼女の事となると冷静でいられない。
 鬱々とするくらいなら聞きたいことは聞けばいいのに、いい歳して何やっているのだろう。
 恋愛に臆病になっている自分が情けない。
 もう言おう。
 彼女に恋人がいたって、俺は彼女を諦める気にはなれないんだから。
 次に会った時にはきみが好きだときちんと言葉にして伝えよう。
 恋人がいるかもしれなくても。
 この気持ちは伝えたい。
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