運命の人
声を掛けられたので振り向くと、スラリとした細身で長身の、先程まで隣で寝ていた男性がこちらを見ていた。
年齢は予想した通り、同年代くらいか、あるいは下。
綺麗な顔立ちに目が奪われる。
いや、でも今はどうして呼び止められたのかが問題だ。
「なんでしょうか」
黙ったままでいるのでこちらから声をかけてみる。
でも応答がない。
「大丈夫ですか?」
様子を伺うように一歩近づいた途端、男性の目から涙が溢れ落ちた。
「どうかしましたか?!」
突然の涙に焦る私に対して男性は微動だにしない。
「もしかして具合が悪いとかですか?!」
聞いても反応がない。
なぜか私をジッと見つめているだけ。
喋ることも出来ないなんて…余程の事態だ。
「医務室!でも駅のホームって医務室あるんだっけ?いや、それより病院に連れて行く方が早い…って、病院は…あれ?そもそもここどこだっけ?終点って言っていたから」
突然のハプニングに頭の中が混乱してまとまらない。
「救急車呼んだ方が早いか!」
そう思いたってスマホを取り出すと、ようやく男性が口を開いた。
「すみません。大丈夫、です」
小さな声は全然大丈夫そうじゃない。
「無理しないでください。救急車呼びますから。そこに座って待っていてください」
近くにあったベンチを指差し、男性を誘う。
でも動かないので背中に手を添えて少しだけ力を込めて押すとようやく座ってくれた。